喫茶なまくび

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「工務店をやってた親から譲り受けたワゴン車だって言ってました。車体の文字は消えかかってたけど……」 「いや、文字までは……ただ、ワイパーが片方だけ動いてた。覚えてないかい」 「雨は降っていなかったから気になりませんでした。朝からずっと暑くて、車でお茶をもらって……ああ、あれに薬が入ってたんだ」  首里が何かを言いたそうに私を見た。おそらく、私と同じ疑問を持ったのだろう。 「山荘に連れて行かれた日がいつか覚えてるかい?」 「眠らされていたからはっきりとは。だけど、数日前だと思います」 「だとしたら、少なくとも午前中はずっと雨だったはず」 「どういうことですか」 「山下君が二週間前よりもっと以前に亡くなっていたとしたら、首里が見た男は君の遺体を探していたことにならないかい?」  雨が一段と激しくなり、雷が鳴る。そこに、駐車場でエンジンが切られる音がした。 「マスター、ただのお客さんだよな?」  ドアの前に人影が見えた。じっと、こちらの様子を窺っているみたいだ。ドアを開けようとした音がして、皆の息が止まる。すぐに、砂利を踏む音が聞こえ、喫茶店の横手に回ったと分かった。 「ブラインド……」
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