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首里が水を乗せたトレイを落っことすのと、常連客達が叫び声を上げたのはほぼ同時だった。
「いや、マジックでしょう?」
「マジックだったらどんなに良かったか」
転がった男の生首がほろほろと涙を流した。
「どどどどういう原理なのこれ!」
首里がパーティションの陰から叫んだ。
「それを何かと言えば、『愛』でしょうか」
血まみれの生首が曲のタイトルみたいなことを言った。
「愛する人の元に帰ろうと思ったら、力が湧き上がったんです。あ、大丈夫ですか?」
流れ広がる血の海に、私は気絶しそうになった。
「何とか」
自分はこの店のオーナーで、娘とこの店を守る義務があるのだと、必死に太ももを拳で叩いて意識を保った。
「良い釣りポイントがあるとか良い人ぶりやがって……」
生首が悔しそうに歯軋りした。
「一体、何があったんです?」
生首は悲しげに一度目を伏せてから喋り出した。
「何度か釣り場で一緒になった男で、名前は加藤とか言ってました。今となっては本名がどうか怪しいものです」
窪田と小杉が、顔を見合わせて何かぼそぼそと話しているのが気になった。
「お二人共、加藤を知ってるんですか?」
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