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「僕も、ナイフで襲われた時、正直終わったと思ったんです……。でも、最愛の妻とお揃いのネックレスだけは奪われなくないって思ったら、急に力が湧いて身体が動いたんです。まさか、首を切られていると思いませんでしたけど」
生首が悔しそうに唇を噛んだ。
「自分の身体とは思えないほど重くて、それでも何とか歩いてここまで……」
「泣ける話だなあ。兄ちゃん、彼女との思い出までは奪わせなかったんだな、偉い!」
窪田が目頭に滲んだ涙を皺くちゃなハンカチで拭いた。
「その男気に感服するよ……」
小杉が震えながら同意した。
「いや、お二方、感動している場合ではないですよ。動揺して忘れていましたが、警察を呼ばなければ」
「そうだよ、お父さん」
「だけどよ、マスター。この状況をどう説明する? 犯罪に巻き込まれ逃げて来た人が店に来た途端に力尽きてしまったと押し通せるか? ちょっと言ってみ?」
窪田が転がった生首と直立不動の胴体を見て言った。
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