*プロローグ

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*プロローグ

「ッぐぁ……! れ、い!」  腕の中の身体がびくびくと痙攣(けいれん)し、僕の口中に熱い血が流れ込んでくる。熱いそれは、想像していたよりもずっと甘くて……僕はそれを吸いながらうっとりと心地よくなっていた。  僕が心地よくなるのとは反比例していくように、腕の中の彼の震えは段々小さくなっていき、触れる肌は体温を失っていく。その冷たさに、僕は自分がしてしまった罪の深さをじわじわと覚え始める。 「……千弥(せんや)?」  名前を呼んでも、彼は答えない。いつものように僕の頭を撫でて微笑みかけてもくれない。何故なら、僕がたったいま殺してしまったから。  ヒトに恋をしてはいけないと言われ、僕は生きてきた。僕が誰かを好きになることは、その誰かの命に関わることになるから、と。  嘘だと思いたかった。そんな悲しいことがあるはず長いと思っていた。でも――それは正しかった。腕の中で動かない千弥を抱きしめ、その冷たさに意識が遠のいてくのが止められない。  ――僕が、千弥を殺した。僕を愛してくれていた彼を、僕が殺してしまった。  腕の中の冷たい現実が、僕の意識を闇の中へと引きずり込んでいく。  重くのしかかる闇色の現実を感じながらも、僕は遠のく意識の中で両親が言っていたあの言葉の本当の意味を知った気がした。 (――ああ、本当だ……好きな人の血って、すごく甘くて、美味しいんだ……)
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