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*エピローグ
――僕なんていなくなればいいのに……そう、ずっと今まで思いながら生きてきた。僕は人の血を欲する化け物の吸血鬼だから。
「ん……ッあ、あぁッ、ッはぁ……」
「零、もっと吸っていいよ……」
「千弥も、もっと、来て……」
暗く光が一切挿し込まない狭い部屋の中、今日も僕らは互いの血を味わいながら命を繋いでいる。
僕らが世間から“消えた”のはいつのことだっただろう。もう忘れてしまったし、もう僕らを憶えているような人は誰もいないだろう。元より僕らには身寄りがなかったのだから、いなくなって困ることもないだろうし。
「あ、ン……千弥、もっと、ね、もっと……」
「おいで、零……」
闇に慣れた目で互いの姿だけを映し出し、夜に溶けるように生きていこうと決めてもうずいぶんと経つけれど、僕も千弥も時が停まったままの姿をしている。吸血鬼とはそういうものだから。
「っは、あ、あ、んぅ、千弥、あぁ」
「っく、っは……零、美味しいよ、零の血」
大好きだよ、零、と、耳元を食みながら囁いてくる声に快感を煽られながら、僕もまた千弥の首筋に牙を立てる。
数えきれないほど味わった甘美な血が口いっぱいに広がり僕を満たしていく。
(――この瞬間が、一番しあわせ……)
同時に千弥もまた僕の首筋に――お揃いのようにぽかりと開いた小さな咬み痕に――咬みついてぎゅっと強く吸血してくる。この瞬間は何度体験しても最高の快感だ。
「あ、あぁ、千弥ぁ!!」
「ッは、あぁ、零!!」
名前すら互いの性感帯として感じ合いながら今宵も熱も精液も血液も交えひとつになっていく。
「――愛してるよ、千弥」
「俺もだよ、零」
「永遠に?」
「永遠に」
だから、もっと僕を血よりも濃く赤く愛して――言葉にならない想いをほのかに染まった唇ごと食らいつきながら、今宵もこれからも僕らは交じり合いながら永遠をふたりで生きていく。
だって僕らは、それがしあわせで、死が別つことのない吸血鬼という化け物だから。
終
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