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隈部 和泉は、遠ざかっていく車のテールランプを追いかけて、外灯もない真っ暗闇な山道を走った。
「らぁ! 待って、ごめんっ、ごめんなさいっ。
……きゃあっ!」
何かが足元に引っかかり、とっさに身を固く構えるが、下り坂で勢いのついた身体はそのままアスファルトへ滑る。
今夜は新月で真夜中の暗い夜空には、頼りない星だけが瞬いていた。
木々は不気味に風で揺れて、キィーッキィーッと悲鳴のような動物の鳴き声が辺りに響く。
数メートル移動しただけで車内から眺めていた遠くの夜景は、山の影に隠れて見えなくなった。
「待って……」
明かりのない山道は恐ろしく、擦り剥けた腕や膝が痛くて、地面に這いつくばった和泉の目からは涙が溢れて止まらない。
車から乱暴に和泉を引きずり下ろした彼氏の尾崎 愛心、通称「らぁ」が、なぜ急に腹を立てたのか直前の会話を思い返す。
『解剖生理のテストがあるから、今日はみんな勉強しててね』
『……オレと会うの迷惑だったってことか?』
『ううん、そうじゃないんだけど、私も結構ヤバいかなって思って』
『和泉、頭いいじゃん。オレと違って』
『いや、全然だよ。しかもね、看護学校って赤点とると二千円も追試代がかかるんだよ』
ゆっくりと身体を起こしながら、愛心がキレた理由を探したが、和泉には分からなかった。
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