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少し山道を下ったところに広めの路肩があり、ゆっくりと達也が停車させる。
「えっと、話したくない事なら無理に訳は聞かないね……よかったら家まで送って行くよ」
心配そうに微笑む達也に、愛心に置き去りにされた時の絶望と恐怖感を思い出し、和泉の涙腺は、またじわりと緩んできた。
「あっ、ごめんっ。泣かないで、大丈夫。
知らないヤツに家を知られるとか嫌だよね? ごめん」
「いえ……すみません。
あの、私……彼氏とドライブに来たんですけど、ちょっと喧嘩というか……彼氏を怒らせちゃったみたいで。
車から降ろされて、置いて行かれたんです……」
和泉は腕に貼ってもらった絆創膏をなぞりながら、だんだん声が小さくなる。
「はぁ? ちょっと待って? 何それ」
少し怒気を含んだ達也の声に、和泉は自らを罰するように絆創膏の上から傷口を押した。
「私、県立病院の横にある看護学校の学生なんですけど、寮の門限を破って彼氏のことも怒らせて……だから置いて行かれても仕方ないんです」
訳を話せば寮の規則も破って勉強もせずに、彼氏と遊んでいたからこういう事態になったと、非常識さを責められるかもしれないと和泉は身を縮める。
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