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「いやいやいや、待った待った。  そりゃ門限を破ったりするのは良くないかもしれないけど、いくら彼氏が怒ったとしても、こんな真夜中の山ん中に置いていく彼氏の方が悪いでしょ」  和泉(いずみ)は自分が非難されるだろうと思っていたのに、愛心(らぶ)の方が悪いと言われて思わず顔を上げて達也を見た。  ほんの一瞬達也(たつや)の顔や身体が、泥まみれになっているように見えたが、まばたきをすると心配そうに和泉を見ている達也の様子は、さっきと変わりない。 (怖くて、目までおかしくなっちゃった?) 「真っ暗な中で、もし道を踏み外したら転落してたかもしれないし、変な(やから)が通りかかってたら、和泉さんみたいな若い女の子が何をされるか分からないんだよ」  そう言われて和泉はゾッとして、思わず自分の身体を抱きしめた。 「その彼氏とは連絡とれないの?」 「あ……彼氏の車の中に携帯も財布も置きっぱなしで」 「うーん」  達也は両腕を組んで口を結び、ため息のように(うな)り声をあげる。 「彼氏が怒ったって、何があったの?」 「えっと……私もなんで怒らせたのか、よく分からないんですけど。  学校のテストがあるから勉強しないといけないって話をしてたら、俺と会うのが迷惑だったのかって……」 「いや、そりゃ迷惑でしょ。  だって看護学校の学生ってことは、和泉さんは将来看護師さんになるんだよね?  たくさん勉強しないといけないのに、その彼氏が邪魔するのっておかしいよ」
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