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父親と愛心以外の男性と、こうやって車に乗ったことがなくて和泉は少し緊張した。
「あ、あの、すみません。絆創膏もらいますね」
「ゴミはこの袋に捨てていいから」
和泉の血液がついてしまったタオルを達也はビニール袋へ入れ、絆創膏の剥離紙のゴミも一緒に入れた。
和泉は両膝に絆創膏を貼り終え、利き手の右腕にはどうやって貼ろうかと首を傾げながら絆創膏を取り出すと、達也がクスッと笑う。
「よかったら、俺が貼ろうか?」
「……すみません」
達也の男性的な骨ばった大きな手に、和泉がドキドキしていると、絆創膏を貼ってくれた感覚も分からなかった。
「ここ、通行の邪魔になるから、ちょっと車を移動させていい?」
「すみません」
和泉は、またペコリと頭を下げてシートベルトを締める。
少し古いタイプの軽自動車は、愛心がローンで買ったものよりも、車内が狭く達也との距離が近い。
他の男と喋るなと怒られ、仕事以外では言いつけを律儀に守る和泉は、少し後悔し始めていた。
(本当に知らない人の車に乗って、良かったのかな?)
車の中には和泉が幼い頃に流行っていた、軽快なラブソングが流れている。
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