きみを呼ぶ

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「スミ、いつまで寝てるの。遅刻するわよ」 「……今日休む」 「あんたそう言って昨日も一昨日も行かなかったでしょ。ずる休みはね、慢性化したらずる休みって言わないの」 眠ったのかそうでないのか分からない寝覚めの中、ママの謎理屈にひとり顔をしかめる。 観ていたのは、セナの夢だ。 夢と呼ぶには相応しくないくらい鮮明で、もうほとんど映像のようだったなと思う。 あの後。 簡潔に言えば、星は消えた。 星という存在すら、初めから無かったことになっていた。 「セナが学校に来たら行く」 「だからそのセナって誰のことよ。学校の先生も、そんな名前の生徒一人もいないって」 ───あの喧騒の中、迷いの無い足取りでどこかへ行ってしまった、セナとともに。 わけがわからなかった。 あんなに取り乱していた人たちは、次の日何事もなかったかのように日常を送っていた。 星が墜落?なんの映画? 誰に聞いても、そんな返答だった。 セナという名前を聞いて回っても、誰も、ほんの一人も、 その存在のことを、最初から知らなかった。 『───ねえ、スミはさ、もしも自分のいる星を消せるとしたらどうする?』 セナ。 きみは本当に、星を消したの? 自分の存在も巻き込んで、初めから無かったことになったの? なんで地球が守られるのに、きみひとりの存在が犠牲になったの? 本当はただ記憶が消されているだけで、 地球でも宇宙でも、どこかに生きてたりするんじゃないの? 聞きたいこと、やまほどあるのに、 聞かせてくれる存在が、もうどこにも見当たらない。 「セナ……っ」 小さく声を紡いだ。 確かにかつて、この世に意味を持っていた文字の並びだ。 ばらしてしまえば何の変哲もない音なのに、きみを表す字列だと思うだけでキラキラと輝いて見えるようになった。 恋は一瞬の錯覚だって、誰かが言っていたけれど。 きみの存在そのものが、もしかしたら錯覚だったりしたのだろうか。 「そんなわけ、ないっ……」 だって鮮明に覚えているのだ。 きみを想えば、口は簡単にその名を呼ぶ。 きみの温度も、名前を呼んで振り返るときの表情も、 いとも簡単に、触れられそうなほど、 目の奥に、焼き付いてるのに。 「セナ……」 セナとの帰り道、すこし寄り道して買ったガチャガチャのキーホルダー。 必死に握りしめて、セナ、セナ、って何度も呼んだ。 覚えてる、はっきりと。 消えちゃいそうな笑顔も、 最後に私に言ってくれた───…… 「……あ、れ」 瞬きとともに、溜まっていた涙がひとつ、ほほを滑り落ちた。 まるで感情のすべてがそこに詰まっていたみたいに、するり。 「……なんて、言ってたんだっけ」
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