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「彼女ひとりが怪物であっても野球は9人でやるもの、桜木茉地さんは怪物の一部に過ぎません」
西さんにバットを手渡しながら、僕なりの考えを伝えた。
「真の怪物とは、投球や守備を含むフィールド全体のことです」
ピッチャーがどれほど凄かろうと、キャッチャーが素人なら速い球は投げられない。ルールもよく理解していない素人の守備は果たして桜木茉地は背中を守られているという安心感を持てているだろうか?
「そうですね……私も怪物に挑んでみます」
先ほどまで蒼ざめていた表情が少しはよくなった。しかし、依然として恐怖を感じているようだ。過去に何かひどい目に遭わされたのだろうか?
あれ? 西さんが左側のバッターボックスに立った。てっきり右側に入ると思っていたのに……。
彼女はブツブツと何かをつぶやきながら、ゆっくりとバットを振った。ピッチャーが投球モーションに入る前から重心の移動を始めていたので、タイミングはドンピシャだった。だが、鈍い音がして1塁側へ転がり、桜木茉地がボールを拾い、自ら1塁のベースを踏んでアウトにした。その間に林野さんがホームにかえって1アウト、スコアは1対0となった。
「くそっ」
かなり苛立ちを見せている。
野球は個人の力だけでは勝てないスポーツである。どう足掻こうが、仲間と協力しなければ、ヤンキーチームはこの先、大量失点を喫する可能性がある。
「──っ!?」
危険球。
球が速いため、危うく天花寺さんの頭に当たる寸前だった。天花寺さんが頭を振ってかわしたが、もし当たっていたら軟球であってもかなり痛みは伴っていただろう。ピッチャーの表情からはワザと投げたわけではないとわかるが、謝罪がなかった。
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