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それにしても、素人であそこまで投げられるなら、確かに怪物と呼ぶにふさわしいと思う。
でも、僕も知っていることがある。
天花寺 月さんもまた怪物と称されるに足る存在であることを……。
カッ、と芯に当たった音を響かせ、桜木茉地の頭上を軽やかにボールが超えていった。天花寺 月さんは類まれなる動体視力を持つ天才であり、中学時代にやっていたソフトテニスでは、打球を常にラケットの真芯で捉えていたそうだ。
「もういい、やめだ、アタイの負けでいい」
1回の表で4点リードしていた野球部チームは1回の裏に桜木茉地が内野の頭を超えるツーベースを放ったが、他のふたりがあっさりと凡退し、2回目の打順では、西さんのあまり曲がらないカーブに引っかかりゴロになった。素人だとカーブを打った経験すらないので、カーブが来るとわかっていなければヒットを出すのは、むずかしいだろう。
2回表が始まり、野球部チームが5点目を挙げた時点で、ヤンキーチームが試合を放棄した。
「それでは約束どおり……」
「ああ、二度と野球部の部室には顔を出さない」
天花寺さんに問われて、桜木茉地がすぐに返事をした。
意外と潔い。
あっさりと負けを認め、条件を受け入れた。
ヤンキーチームは、ジャージの下を履いているが、上は制服のままである。よほど暑かったのか、試合中にいつの間にかブラウスの第2ボタンまで外していた。そのため、中学時代では見たことのない見事な胸の谷間が露わになっており、必死に視線を逸らす努力をした。
「あー、汗がベタベタする。今日は早めに帰るとするか」
「いいえ、ダメです」
「あ?」
瞬時に空気が重たくなった。
天花寺さんの一言によって、桜木茉地の視線が再び鋭くなった。
「3人とも野球部に入部してください」
「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁ~~~~~~~ッ!?」
桜木茉地の今日いちばんの大きな叫び声が、運動場近くに響き渡った。
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