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──いや、きっとこれは罠だ。
僕を油断させておいて地獄の底へ叩き落すつもりかもしれない。
「これから急ぎの用があるので失礼します!」
「あっ……」
桜木茉地がなにか言いかけていたが先手必逃、逃げるが勝ちだ。
普段、通学には使わない道へ曲がったりしたので、かなり迂回する形になった。大きな川に架かっている長い橋に差しかかったところで、小学低学年の子が橋の欄干によじ登って綱渡りをして遊んでいるのを目にした。
あぶないなー。
早歩きで近づき、驚かせないよう小声で注意しようとした瞬間、男の子がぐらりと体勢を崩したのが見えた。
「くそっまずい!」
残り約25メートルの距離がある。鞄を投げ捨て全力で駆け寄るが、間に合うかどうかはわからない……。
走っている途中、斜め後方から足音が聞こえた。あっという間に追い抜かれ、どんどん距離が開いていく。
九家学院の制服を着たお団子ヘアの女子高生は、走っているその姿は躍動感に満ち溢れ、これほど足の速い女性を今まで見たことがなかった。
小学生の男の子が落ちそうになった瞬間、手を伸ばしてぎりぎり手首を掴むことができたが、欄干に腰まで乗り上げているため、女の子まで落ちてしまいそうになる。
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