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試合は3対2で東横大三浦高校が1点リードしていて、9回裏の聖武高校最後の攻撃が始まっている。
ノーアウト満塁の場面で、背番号10をつけたピッチャーが交代を告げられた。マウンドに上がるエースナンバーのピッチャーを見た瞬間、僕は思わず身震いした。
榊 雷闇。
昨年、中学3年生の時点で140キロ台後半を叩き出した、まさに令和の怪物。
中学の時点で私立高校のスカウトだけではなく、プロのスカウトまで見に来ていた逸材中の逸材。
僕がなぜそんなことを知っているかというと……。
「ねえ、あのピッチャー、こっち見てない?」
「月のこと見てる? 許さんぞ、あのケダモノめ!」
月がつぶやき、火華が吠える。
でも、違う。
彼が見ているのは……。
ズンッ。グラウンドを超えて響くミットに収まったボールの音。
打者にとっては、それは恐怖の塊でしかない。
遠くからでもわかる剛速球。バットは何度も空を切り、あえなく散っていく。また球速が上がっている? 下手したら150キロ台に達しているんじゃ……。
これまでの努力や技術、経験、知識のすべてを否定する圧倒的な「才能」。
彼の前に立った人間は自分の持っているすべてを圧し折られて、やがてグローブを置いてしまう。
それは、なにも相手バッターに限られるものではない。
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