第6球 プロ妹

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 試合は3対2で東横大三浦高校が1点リードしていて、9回裏の聖武高校最後の攻撃が始まっている。  ノーアウト満塁の場面で、背番号10をつけたピッチャーが交代を告げられた。マウンドに上がるエースナンバーのピッチャーを見た瞬間、僕は思わず身震いした。  榊 雷闇(さかき らいあん)。  昨年、中学3年生の時点で140キロ台後半を叩き出した、まさに令和の怪物。  中学の時点で私立高校のスカウトだけではなく、プロのスカウトまで見に来ていた逸材中の逸材。  僕がなぜそんなことを知っているかというと……。 「ねえ、あのピッチャー、こっち見てない?」 「月のこと見てる? 許さんぞ、あのケダモノめ!」  月がつぶやき、火華が吠える。  でも、違う。  彼が見ているのは……。  ズンッ。グラウンドを超えて響くミットに収まったボールの音。  打者にとっては、それは恐怖の塊でしかない。  遠くからでもわかる剛速球。バットは何度も空を切り、あえなく散っていく。また球速が上がっている? 下手したら150キロ台に達しているんじゃ……。  これまでの努力や技術、経験、知識のすべてを否定する圧倒的な「才能」。  彼の前に立った人間は自分の持っているすべてを()し折られて、やがてグローブを置いてしまう。  それは、なにも相手バッターに限られるものではない。
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