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……振り返っても誰もいない。
でも地面に落ちている木の枝が、踏んで折れた音がした。
何者かの気配はしたのに、おかしい。
俺はよく目を凝らした。
薄暗い中の、旧三道コースの中腹。人の気配はしなかった。
すると、また音が鳴る。
ザクザクッという、さっきと同じ、木の枝が折れる音。
「何だ!?」
心霊的な怖さにより、気がつくと大きな声が喉から出ていた。
もちろん周囲に反応はない。
気のせいか……ピタッと止めていた足をもう一度動かそうとした時、俺の足元を横切る謎の生物を捉えた。
「うわぁ!」
耳は三角、体はシュッとしていて、尻尾が長い。
四足歩行のその生物は……。
「狐……か?」
狐と思われる生物は、俺を気にせず真っ直ぐ駆け上がった。
興味本位で、後をついていく。
歩行スピードがゆっくりになって、俺もついていきやすい。
確か小さい時も、この函館山で狐を見つけて、夢中で追いかけたりしたっけな。
香美と二人で、無邪気に笑いながら……。
「香美……」
鮮明に、幼少期の記憶が思い浮かぶ。すると、薄暗い山の中に一筋の光が落ちたように、視界にフラッシュが走った。
「……あれ、狐は?」
視界が元に戻る。またしても薄暗闇だ。
だけど、何かがおかしい。
あれ? さっきまで木々が風で揺れていたのに、今は一切揺れていない。
この道、木の枝はたくさん落ちていたけど、ここまでの落ち葉があっただろうか。
様子が変わっている……。
そして、完全な変化に気づいた。
これまで進んできた道は、足元は悪いとはいえ、ルートはしっかりと舗道されていた。
だけど、この道は全く整備されていない。
落ち葉がクッションのようになって歩きづらいし、道の先も真っ暗だ。
それでも進んでいく。来た道を戻るという選択肢は、俺になかった。
まるで俺を導いているかのように、その道には等間隔で太い木が立ち並んでいた。
俺を迎えてくれているのか? その不思議なルートをズンズン進んでいくと、急な突風に見舞われた。
俺のボサボサな厚ぼったい髪が、余計にぐしゃぐしゃになる。
暴力的な風量に舌打ちをした後、シュウッと風が止んだ。
閉じていた目を開けてみる。
……そこには見慣れない山小屋がポツンと建っていた。
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