渡島あやかし飯処 ~迷い人を救うヒミツのチカラ~

3/9
前へ
/9ページ
次へ
 ……振り返っても誰もいない。  でも地面に落ちている木の枝が、踏んで折れた音がした。  何者かの気配はしたのに、おかしい。  俺はよく目を凝らした。  薄暗い中の、旧三道コースの中腹。人の気配はしなかった。  すると、また音が鳴る。  ザクザクッという、さっきと同じ、木の枝が折れる音。 「何だ!?」  心霊的な怖さにより、気がつくと大きな声が喉から出ていた。  もちろん周囲に反応はない。  気のせいか……ピタッと止めていた足をもう一度動かそうとした時、俺の足元を横切る謎の生物を捉えた。 「うわぁ!」  耳は三角、体はシュッとしていて、尻尾が長い。  四足歩行のその生物は……。 「狐……か?」  狐と思われる生物は、俺を気にせず真っ直ぐ駆け上がった。  興味本位で、後をついていく。  歩行スピードがゆっくりになって、俺もついていきやすい。  確か小さい時も、この函館山で狐を見つけて、夢中で追いかけたりしたっけな。  香美と二人で、無邪気に笑いながら……。 「香美……」  鮮明に、幼少期の記憶が思い浮かぶ。すると、薄暗い山の中に一筋の光が落ちたように、視界にフラッシュが走った。 「……あれ、狐は?」  視界が元に戻る。またしても薄暗闇だ。  だけど、何かがおかしい。  あれ? さっきまで木々が風で揺れていたのに、今は一切揺れていない。  この道、木の枝はたくさん落ちていたけど、ここまでの落ち葉があっただろうか。  様子が変わっている……。  そして、完全な変化に気づいた。  これまで進んできた道は、足元は悪いとはいえ、ルートはしっかりと舗道されていた。  だけど、この道は全く整備されていない。  落ち葉がクッションのようになって歩きづらいし、道の先も真っ暗だ。  それでも進んでいく。来た道を戻るという選択肢は、俺になかった。  まるで俺を導いているかのように、その道には等間隔で太い木が立ち並んでいた。  俺を迎えてくれているのか? その不思議なルートをズンズン進んでいくと、急な突風に見舞われた。  俺のボサボサな厚ぼったい髪が、余計にぐしゃぐしゃになる。  暴力的な風量に舌打ちをした後、シュウッと風が止んだ。  閉じていた目を開けてみる。  ……そこには見慣れない山小屋がポツンと建っていた。
/9ページ

最初のコメントを投稿しよう!

9人が本棚に入れています
本棚に追加