渡島あやかし飯処 ~迷い人を救うヒミツのチカラ~

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 ”渡島にゃ、不思議な飯処がある”  古くから言い伝えられてきたその言葉。  それは何の根拠もない、ただの伝え話だ。  その言葉がどんな意味を成すのかは、誰も知りはしない。  都市伝説があったり、何らかのエピソードがあってその言葉が生まれたわけではなく、言わばただの俗説だった。  渡島の歴史資料にも、言葉しか記載されていない。  子供はおばあからその言葉を聞き、意味を聞いてもよくわからんから教えられんと、深くまで説明を受けることはなかった。  おばあもその母や先生から教えられただけ……その言葉を代々繋ぐ必要があるのかと、疑問に思うものも少なくはない。  中身は不透明で、だけど何故か言い伝えられていく……。  渡島の中心、函館に住むものは皆、そんな言い伝えがある程度の認識だった。  不思議な飯処とは、実在するのだろうか……。  それは出会ったものにしかわからない。  海と山、自然に囲まれた渡島には、たくさんの幸がある。  食を支え、また人々は食に支えられ……食に囲まれた渡島だからこそ、その迷信が生まれたのかもしれない。  今宵も月が見える。  優しい海に囲まれた渡島半島……。  狐が跳ねる道南の街で、幻想は形となる。  ――その食事処は、この地域を訪れる迷い人には、もしかしたら見えるのかもしれない。
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