恋風

4/6
前へ
/6ページ
次へ
 僕は必ず、ページを捲った先が後書きの締めとなるようにしている。  そうして次のページを空白で残す。  余韻を残すためだと言っているけれど、本当は僕の小さな我儘だ。  大切な人に伝えたい言葉がある。  いつまでも大切な人、明日香と会えなくなって、どれくらい経つだろう。  今もずっと大切な人、僕の半身のような君。  最後に明日香の微笑みを見たのは、僕のデビュー作品の出版が決定した頃だった。  明日香は、無理に笑おうとして、涙を溢した。  そうして、僕の前から消えてしまった。  剥がれ落ちた僕の半身、明日香の手を掴むことが出来なかった自分にがっかりとした。  明日香が涙を落としたならば、駆けつけて抱きしめてあげたいと今でも思う。  けれど僕には叶わない。  僕は明日香へ、溢れる想いを届けたくて、後書きの最後の空白に手紙を綴ることにした。  明日香は僕の気持ちを受け取ってくれたから。  友人伝に「ありがとう」と伝えてくれる。  そんな明日香が僕は愛しい。  会えなくても気持ちを届ける方法を見つけた僕は、明日香の幸せを誰よりも願う。  明日香が僕のラブレターを受け取ってくれる限り、必要としてくれている限り、僕は大切な明日香へ想いを贈り続ける。  大切な明日香が、永遠に微笑んでいられますように。  そうして、気が付けば、僕らはまるで近いのに、合わさることが難しい遠くへ離れ離れになってしまった。  全ては僕が、臆病だから。
/6ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2人が本棚に入れています
本棚に追加