ブレーキ

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「茉莉!無事で良かった。さぁ、犯人が眠っている間に逃げるぞ!」  誘拐犯に囚われた私を、恋人の誠也が助けに来てくれた。  誠也は椅子に縛り付けられた私を解放する。 「誠也……!貴方、どうやってここまで!?」 「見つからないように、途中から山林を徒歩で抜けてきた。誘拐犯の車とキーを見つけた。それに乗って急いで下山するぞ」  よく見れば擦り傷だらけの誠也。ひどく険しい道のりだったのだろう。  私達は音を立てないように建物から脱出し、車に乗り込んだ。  エンジンをかけ、ふもとまでの1本道を下っていく。 「このまま警察に向かう。そうすればアイツの政治生命は断たれる……あれ?」 「誠也?」  急に様子がおかしくなった誠也。  下り坂でぐんぐんスピードを上げていく。 「ちょっ…スピード上げすぎよ」思わず胸のシートベルトを握りしめる。  ダンダンダンッ! 「くそっ!」ペダルを何度も踏み、焦る誠也。 「ブレーキが効かないんだ!」 「えぇぇっ!?きゃあぁっ!」  スピードを上げたままカーブに差し掛かり、車が転倒してしまうのではないかと思える負荷がかかった。 「このままでは二人とも死んでしまう!茉莉、お前だけでも降りろ!」 「無理よ!動いている車から降りるなんて……誠也、この先急カーブよ!」  カーナビに表示された道を見て、私は驚愕した。 「とてもじゃない……無理だっ!」 「きゃあぁぁぁぁっ!」  迫りくるガードレール、強い衝撃。  車は山肌を横転しながら落下し、しばらくして爆発音をさせ炎上した。  上空まで上がったその煙を、山頂の建物から微笑みを浮かべ眺める男がいた。
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