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お仏壇から
頼子は小さい頃から虫が苦手だった。
両親は店を経営していたので忙しく、頼子と、その姉の弘子は祖母がいつも面倒を見てくれていた。
祖母は動物だったら何でも好きだった。
特に小さい鳥、リス、ハムスター。そのあたりまでは頼子も面倒を見られるのだけれど、鈴虫を毎年、卵を買ってきて、そこから育てるのは勘弁してほしいと思った。
大きな水槽におがくずや木くずを敷いて、常に湿らせ、冬の間中、室内で育てる。独特の匂いがするので、頼子の母も嫌がっていた。
そのうち、小さい小さい、鈴虫が出てきて、何度も脱皮して、秋になると
「リーン リーン」
と、外でなくマツムシや他の虫とは違い、とても美しい音色を出すのだ。
それすら、羽をこすり合わせていると聞いてからは、気味悪く感じるようになった。
祖母はお盆の度にお仏壇を綺麗に掃除していた。
宗派は真言宗。故人のお位牌はそれぞれの分あって、一つ一つ名前呼びながら綺麗に拭き清める。
もっと古い仏様の分は先祖代々。と書いた箱の中に木の札として入っている。
棚も一つ一つ拭き清めて、終わりにしようとすると、
「ほら、御褒美に良い物見せてあげよう。」
と、お仏壇にある引き出しからなにやらビニール袋に入っている物を見せてくれた。
虹色に輝いている宝石の様だが、虫の苦手な頼子にはどうしても虫に見える。
姉の弘子は
「わぁ~、結構集まったね。」
と、その存在を前から知っていたようだ。
「見付けるたびに集めているからねぇ。」
と、祖母も自慢げだ。
「あんたたちも見付けたらここに入れておきなさい。」
とまで言われた。
頼子は、
「ねぇ、おばあちゃん、それ、なに?虫?」
と聞くと、
「玉虫厨子って知らないかい?」
と聞かれた。
頼子は本をよく読むので、その名前は聞いたことがある。
たしかどこかのお寺の宝飾品だった物の名前だ。
木製の塔のようなものではなかったか?
「知ってる。」
「それを作れるほど集めるのは大変だけど、これが材料の玉虫だよ。この虫の羽を貼ってつくってあるだに。」
と言われ、後ろにそっと下がった。
「なんだい、貴重な物なのに。」
とあきれた祖母は、姉と二人でその玉虫を集めている袋を大事にお仏壇の引き出しにしまった。
その後、祖母が「ギッチョン」とか「スイッチョン」とか呼ぶ、大型のバッタを、姉が原っぱへ取りに行った。
そのバッタはどうやら今調べてみれば「ウマオイ」という種類らしい。
「ギーッチョン スイィ~ッチョン」
と鳴くので、祖母は季節になるとそのバッタも愛でていた。
頼子は普通の小さなバッタも苦手なのでそんな大きなバッタには触る事すらできない。
玉虫を見てから、頼子は本を読んで密かに憧れていた玉虫厨子が、とても嫌なものに思えてしまい、頭から追い払う事にした。
ところが、大人になって、大きな植物園に行った時の事。
色々な植物の種が、おいてあって、どの木の種はこんな形。というのを見ている時、なんと、昔見た玉虫も一緒に展示されているではないか。
展示の説明をしている人に
「あの~、これ、まさか虫ですよね。」
と、変な聞き方をすると。
「そうですよ。よく知ってますね。玉虫って言ってね。ほら。綺麗でしょう?」
と、頼子に手渡そうとする。
頼子は慌てて手を引っ込めて、
「いやぁ、昔祖母が集めてまして・・・」
と、言って、そっとその場を離れた。
虫が苦手な頼子も確かに玉虫のあの色は綺麗だとは思うが、死んでもなお輝きを失わないあの虫が、頼子は結構怖い。
だって、死んでしまったら、何でもくちていくのに。
何であの虫だけ、死んでも輝いて、みんなに集められているのかがとても不思議なのである。
【了】
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