2.鬼の眼の源流

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 一階のリビングでは、ソファに寝そべった父がTVをぼんやりと眺めていた。リビングに続くダイニングには、カウンター越しにキッチンで洗い物をしている母親の姿が見える。普段共働きをしている両親だが、この日は二人とも家でのんびり過ごすようだ。  凪はソファの空いている場所へ座ると、「お父さん」と声をかけた。 「ん? 何だ、凪」 「おばあちゃんも、私が見えるようなもの見えてたんだよねぇ?」 「あぁ、お化けのことか? よく見えてたなぁ。父さんはそういうの全然見えないから、本当かどうかもわかんないけどな」  リビングは、襖を隔てて和室にも繫っていた。その部屋は仏間になっており、その名の通り部屋の隅に仏壇が置かれている。仏壇には凪の父親の両親、つまり凪にとって父方の祖父母の位牌が飾られていた。 「おばあちゃんて、鬼を見たことあるって言ってた?」 「鬼ぃ?」  父親がそんな素っ頓狂な声を上げた時、仏間からカタンと何かが落ちる音がした。驚いて仏間を覗いてみると、畳の上に黒光りした位牌がひとつだけ転がっている。 「これ……」 「母さんの位牌だな」  いつの間にか凪の背後に立っていた父親が、位牌を拾い上げつつそう言う。 (もしかして今の会話、お祖母ちゃん聞いてた?)  そうでも思わなければ、風も吹き込んでいない仏間の仏壇から、二つある位牌のうちひとつだけが転がり落ちる説明がつかない。そう感じたのは、凪だけではなかった。 「母さんからは聞いたことなかったけど、叔母さんからならまだ話が聞けるかもしれないな」 「叔母さんて……おばあちゃんの妹の?」 「あぁ。叔母さんにも母さんと同じような力があるって聞いたから、もしかしたら鬼の話も聞けるんじゃないか? 会ってみるか?」  そう言った父の面持ちは神妙だった。  いきなり「鬼」と聞くとどうしてもおとぎ話のイメージが先行して、そんな存在は有り得ないと、特に人ならざるものが見えない普通の人間であれば一蹴しそうなものだが、意外にも父は真剣に受け止めていた。  それはおそらく、一蹴しようとしたところで祖母の位牌がタイミング良く転がったからだろう。祖母の能力をよく知っていた父は、そのような能力を受け継がなかったにしても、本能的に「この話題は一蹴してはいけない」と悟ったのだ。  この機会を逃してはいけないと、こちらも本能的に感じ取った凪は、「うん、会いたい」と真顔で返事をするのだった。
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