2.鬼の眼の源流

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 翌日、凪は父親の運転する車に乗り、二人で大叔母の家へと向かった。大叔母の家は、凪の家から高速を使って一時間ほどで到着する少し離れた街にある。大きな河川沿いに佇む純和風の一軒家で、そこに長男夫婦とその子供たちを含めた五人家族で暮らしていた。表門すぐ横の表札には『伊藤』とある。大叔母は伊藤家に嫁いで、名前を『伊藤みな』と云った。  表札すぐ下のインターホンを鳴らした凪の父は、「御免下さい、高橋ですけども」と告げた。暫くして、「はい、今出ます」と声が聞こえ、三十代半ばくらいの女性が中から表門を開ける。彼女は伊藤家長男の嫁、伊藤彩香(さやか)だ。 「すみません、彩香さん。突然お邪魔して。お久しぶりです」 「高橋さん、お久しぶりです。お会いするのは四年前の義父(ちち)のお葬式以来ですよね」  そう笑顔で二人を敷地内に迎え入れた彩香は、二階建ての伊藤家の中へと先導した。伊藤家との再会は、みなの夫が他界した四年前の葬式で顔を合わせて以来となる。  二人が通されたのは伊藤家の一階にある十二畳ほどのリビングで、そこにはすでに大叔母と長男の伊藤拓也(たくや)がソファに座って待っていた。リビングには大きなTVと真ん中に細長いローテーブルがあり、その周りをソファがL字型で囲んでいる。  まずは互いの自己紹介と近況報告から話は始まった。伊藤家とは、法事の時くらいしか顔を合わせることが無いので、凪はほとんどこの家族のことを知らなかったが、祖母がまだ生きていた頃、父には幾度となく伊藤家との交流があったらしい。特に長男の拓也と父は男同士の従兄弟ということもあり、顔を合わせればよく遊んでいたようだ。  みなは姉の孫である凪と話をするのが楽しみだったらしく、今回父親から連絡を受けた時もかなり喜んでいたらしい。 「そりゃあだって、が出来るのは今まで姉さんしかいなかったんだから、十三年前に姉さんが亡くなってからずっと寂しかったんだもの。凪ちゃんには迷惑な話かもしれないけど、私はずっと凪ちゃんと話してみたかったのよ」  彼女はそう言って凪にニコリと微笑んで見せた。みなは現在六十三歳で、生え際は確かに白髪がちらほらしているが、髪はブラウン系に染めているせいかまだまだ若々しかった。小柄でぽっちゃりしているが健康的で、祖母の優し気な印象と重なって、凪的にはずっと会っていなかったのが嘘のように親近感が湧いていた。  みなの言う“こういう話”とは、鬼の眼で見えるものの話だ。父親は事前の連絡で、「凪が叔母さんに訊きたいことがあるらしい」と伝えていた。
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