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「その伝説の巫女さんは、鬼を封じた後どうなったんですか? やっぱり亡くなったんですか?」
「すぐには亡くならかったみたいだけどねぇ。“封じた”って言うくらいだし。でも、その後のことは伝え聞いてないのよね。だからその辺りのことを知りたかったら、やっぱり小波神社へ行くしかないだろうね」
(京都かぁ。遠いなぁ……)
大叔母の家は車で二時間もかからない距離だからまだ気軽に来れるが、京都となるとそう簡単にはいかない。京都は凪の高校の修学旅行先の候補地でもあるが、あくまでも候補のひとつなので必ず行けるとは限らないし、もし行けるとしても修学旅行は二年生の行事なので、凪にとっては一年後の話だ。
「凪ちゃんもしかして、鬼を見たの?」
「いえ、見たことは無いんですけど……神社の白蛇様に忠告されて……」
「白蛇様に会ったの? 凄いねぇ。凪ちゃん、それは大事な忠告かもしれないよ」
「はぁ……」
その忠告を大事にすれば、忌一とはもう二度と会えなくなる。それは今の凪にとって、身を切られるほどに辛いことだ。だからみなにそう助言されても、素直に「忠告通りにします」とは言えなかった。
ひとしきり凪の訊きたいことが聞けたと判断した父親は、「凪、そろそろお暇しようか」と言って席を立った。父に続いて凪も帰ろうとすると、みなたちは表門まで二人を見送った。
別れの挨拶をして凪が車へ乗り込もうとした時、みなが急に「凪ちゃん。鬼には人に化ける者が居るって聞いたことがあるから、気を付けてね」と、声をかけた。
「え? 鬼って人間に化けられるんですか?」
「そういう者も居るみたいねぇ。これも伝え聞いてる話なのよ。でも、私たちなら必ず鬼の気配に気づけるはずだから。とても恐ろしい気配だそうから、出会った瞬間にわかるはずだよ。注意してね」
そう言ってみなは凪の手を両手でギュッと握りしめ、バイバイと手を振って送り出した。
(とても恐ろしい気配だから出会った瞬間にわかる……)
発進した車の中で、凪は暫く最後の大叔母の言葉を反芻していた。その時すぐそばのカーラジオから、小さなノイズをバックにニュースを読む女性記者の声が聞こえてくる。
『昨日の午前十時頃、都内の山中で男性の遺体が発見されました。遺体は殆どが骨の状態で見つかっており、何かの獣によって遺体が損傷したものと見られています。遺留品はまだ見つかっておらず、身元は不明のままです』
凪の耳はその情報を、右耳から左耳へと自動的に受け流していた。何故なら、すっかり忘れていた忌一との初対面で、彼から恐ろしい気配を感じていたことを思い出していたからだった――
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