3.逢魔が時

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『〇月×日午前十時頃、都内の山中にて男性の遺体が骨の状態で発見された事件で、遺体発見から五日後の昨日、遺体の身元が確認されました。男性は株式会社小和建設の社員、小山勇人(こやまゆうと)さん(27歳)で、小和建設地方支部の総務課に所属しており、小山さんは遺体が発見された日の前日に有休休暇を取っていて、その日から行方がわからなくなっていました。警察は、関係者からその日の小山さんの行動について調べています』  松原家の食卓で遅めの朝食を取っていた松原清治(せいじ)は、リビングのTVから洩れ聞こえる物騒なニュースに耳を疑った。被害者の所属する建設会社の名前に、何故か聞き覚えがあったからだ。 (特にCMを流すような大手でもないのに、社名に聞き覚えがあるのは何故だ?)  清治が勤めている会社は、精密機器部品メーカーだ。取引先も同業関係の企業や大手家電メーカーなどが多く、不動産業界の企業とはあまり接触する機会がない。  新しい工場の建設計画でもあったかと記憶を手繰ってはみるが、海外への進出でもない限り、国内で新しい工場を建てるというような景気の良い話はここ十数年、聞いた試しが無かった。  なので聞いたとすればおそらく、仕事中に聞いたわけではないと断定する。 (で、あれば何処で聞いた? 出先か? それとも家で?)  出先と言っても、仕事以外で普段出かける場所と言ったらスーパーやコンビニ、ドラッグストアといった食材や日用品を買うための店にしか立ち寄ってはない。趣味が殆どと言っていいほど無い清治は、休みの日にわざわざ出かける場所もないので、仕事場と家とそういった店の往復しかしていないのだ。  その往復の間で例の建設会社の現場を目にして、企業名の書かれた看板か何かが記憶に残っているのであれば、聞き覚えがあっても不思議ではないのだが。 (でも目にしたというよりは、誰かが口にしたのを聞いたような……しかもさっきのアナウンサーのような女性の声で……)  そこまで思い出し、ふと玄関に見慣れない美人女性が訪れた記憶を思い出す。女性はその企業名を名乗り、当時息子が働いていたバイト先と関係があると言っていたような……  そこまで思い出しかけた時、二階から息子の忌一が下りてくる階段の足音で清治はハッと我に返った。いつも週末の忌一は、清治が起床する前に起きて仕事へ出かけているか、昼過ぎになるまで起きてこないかのどちらかだ。週末で午前中のうちに下へ降りてくるのは、非常に珍しいことだった。  てっきり朝食を食べに食卓へ寄るものだと身構えていたが、そのうち玄関の引き戸がガラリと開く音がして、忌一はどこかへ出かけて行ってしまった。しかも、父親に何も声をかけずに出かけるのも、普段の忌一からすると随分不自然だった。
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