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俺はそのメールを読んで笑ってしまった。ああ、やはりこの子はいい。
何も言わなくても俺が働きかけたと気づいて礼を言ってきた。
『君には仕事以外も期待している』
そうすぐに返信した。
彼女がまた両手で顔を覆っている姿が目に浮かんだ。相川抜きにしてふたりきりで会おうとその時決めた。
* * *
北野化学の娘の正体がわかり、何が何でも彼女との縁談だけは阻止しようとすぐ父さんに連絡したら、食事をすることになった。
「なんだよ、父さん。改まって……家じゃまずいのか?」
「ああ……久しぶりだな、信也。元気そうだ」
「うん。仙台は空気もいいし、食い物も旨い。最高だったよ」
ふたりで向かい合わせに座る。ここは父の行きつけの和食店だ。懐石料理というには大仰だが、小料理屋というのは失礼にあたりそうだ。気取らないいい店で俺も気に入っている。父が使う個室に久しぶりで入った。
「あら、信也さん。お久しぶりです。どのくらいぶり?」
「四年くらいですかね。女将さんも相変わらずおきれいで……」
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