電話の人

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 イレギュラーなことも話せばわかってくださるし、最後には無理させて悪かったなと私に言ってくれた。その一言で私は救われたようなものだ。その際、ミスをした後輩を庇う私に、とても同情してくれた。  北野さんは本当は能力がある。それは教えていたからわかる。仕事への意識の問題だと思う。彼女はここに入社したときから特別扱いをされてきた。彼女は大きな取引先のお嬢様だった。要するに、コネ入社だ。  そして、彼女自身も、自分の意思でこの会社に入ったわけではないと言うことがあった。つまり、この会社が好きではない。だから仕事も好きじゃない。悪循環の始まりだった。  彼女を大切にしないといけない理由がこの会社にはあり、部長も彼女の腰かけ風情の仕事ぶりを許してしまっている。  それが彼女の姿勢に拍車をかける。仕事を預けても適当になる。彼女の仕事はたくさんのミスを呼び、多くの人に迷惑をかけ始めた。そして、指導員の私はそのたくさんのミスをすべて庇い、片付けてきているのだ。  もう、叱る気も失せた。社会人として大切なことを、いや、人間として大切なことができていない。
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