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教室に入るなり、中にいた全員が息を飲んで僕を見た。
顔色が真っ青になる者、目と口を見開く者など、反応は様々だ。
やがて、女子の一人が悲鳴を上げ、それをきっかけに教室内は叫びが飛び交うパニック状態となった。
そいつらを尻目に、僕は自分の座席に腰を下ろした。
周囲はひたすらパニック状態。その対応を『騒がしいな』とただ思う。
昨日まで、誰も僕なんか見なかったくせに。見えていても見ないふりをして、僕の存在を透明化していたくせに。
クラス内の目立つグループ。そこのリーダー格に目をつけられ、直接的な手出しはされないけれど、ずっといないものとして扱われていた僕。
別段、一人でいることは苦ではなかったから、つまはじきにされていても特にどうということもなかった。まぁさすがに、グループで実験…的な授業の時は、そこに参加させてもらえないから困ったけれど、教師も見て見ぬふりをしている以上、それで減点はないだろうと踏んで、されるがままに扱われていた。
そんな僕は、つい先日、ふいの交通事故でこの世を去った。…去ったと思うんだ。気づいた時、僕は自分の遺影が置かれた仏壇の前にいて、どんなに探しても、もう自分の肉体を見つけることはできなかったから。
死んだ挙句幽霊になった。それを悟ったのは、側にいる両親が僕に気づかず、ただただ泣いている姿を見た時だ。
親より先に死んでごめん。そう思ったらその場にいられなくなり、なんとなく家を出た後は。これまでの習性なのか、何故か学校に来ていた。
どうせ今までだって透明人間のような状態だった。だったら本当に見えなくなった今、教室にいても別にいいだろう。
その程度の気持ちだったのに、いざ教室に入ったらこれだ。
親には気づかれなかったし、ここに来るまでの間にも、特に誰に何を言われることもなかったのに、どうしてこいつらには幽霊の僕が見えるのだろう。
はっきり姿が存在していた時は見えないふりで、体がなくなったら見える見えると騒ぎだすなんて、滑稽もいいところだ。
まぁ何にしろ、僕は当分ここを離れる気はないから、透明な筈の僕が見える君達は、ただいるだけの僕を恐れて、好きなだけ騒いで狼狽えてくれていいよ。
透明…完
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