砂糖菓子は幸せの味

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砂糖菓子は幸せの味

 初めて砂糖菓子を食べた時、子供の頃にお使いの途中で聞いた誰かの会話を思い出した。  恋というのはお砂糖みたいに甘く、キラキラしていると。  「美味しい?」  「はいっ! とっても甘くて、幸せな気持ちになりました」  恋もこれくらい幸せな気持ちになるのかな?  僕は隣にいる優しい王子様を見てそう思った。   ※ ※ ※  嫌なことやツラいことがあったら小さな砂糖菓子を1粒口に入れる。  そうしたらもう大丈夫。  だって口に広がる甘い味とよみがえる幸せな思い出が忘れさせてくれるから。  「また叩かれたの、リュイ? ここ、赤くなってる」  「フェリクス様······」  ここはお城の裏庭。  ジメジメとした狭いここはいつも人気がなくて静か。  そこで休憩を取っていた僕に声をかけたのはフェリクス様だった。  「あっはい······ちょっとお仕事に失敗しちゃいまして」  「それでも過度な暴力は許されないよ。大丈夫? 痛かったね」  「もう、平気です」  これは強がりじゃなくて本当のこと。  だって頬に触れたフェリクス様な手が冷たくて気持ち良く、少しだけ頬の腫れが引いてマシになった気がしたから。  フェリクス様は孤児院出身の下級使用人の僕なんかよりずっと尊い身分の方。  たしか、3番目の王子様だったはず。  本来なら"フェリクス様"と名前で呼ぶことも、こうして会話をすることも許されない。  だけどフェリクス様は初めて会った時から優しくて······  「はい、砂糖菓子。ほかの人には内緒だからね」  「うわぁ······! ありがとうございます!」  僕に幸せをくれる。  貰ったのは色とりどりの小さな砂糖菓子が入ったガラス瓶。  キラキラと光るそれはまるで宝石と宝箱。  お礼を言った僕はさっそく砂糖菓子を1粒摘まむ。  口に入れた瞬間、トロリと溶けて甘い味が広がって自然と口角が上がった。  「どうかな? 今日はいつもと少し違うのを持ってきたんだけど」  「とっても美味しいです。それにいつもより甘味が濃い気がして幸せです」  「それなら良かった。なくなりそうになったら遠慮なく言ってね。すぐにまたあげるから」  お菓子は贅沢品。  特に砂糖は生産量が少ないらしく、口にできるのは王公貴族やお金持ちの商家くらいだ。  それをフェリクス様は毎日のように貰うから食べてほしいらしい。  砂糖は食べ過ぎると病気になったり、太ってお腹が樽みたいに出ちゃうからって。  「でも、本当に僕だけこんな贅沢していいんでしょうか······」  ガラス瓶に詰められた色とりどりの砂糖菓子。  1粒1粒は丸くて小さいけど、その分たくさん入っているから分けようと思えば皆に分けられる。  特段この人と仲良しと思える人はいないけど、それでもやっぱり申し訳ない気持ちになってしまう。  そんな僕の言葉にフェリクス様は微笑み、優しく頭を撫でてくれた。  「いいんだよ。だって、リュイはいつも1人で頑張っているんだから。それに俺はリュイはこの砂糖菓子を食べて幸せそうな顔をするのがなによりも嬉しいんだ」  「フェリクス様······」  僕は赤子の頃に親に捨てられ孤児になった。  15歳になってすぐ王宮の下級使用人として働くようになったけど孤児院出身だからという理由で差別や嫌がらせを受け、1年が経った今ではそれも日常の1部となっている。  だからフェリクス様だけ。  僕なんかにここまで優しくしてくれるのは。  日の光に輝く金色の髪。  透き通るような淡い紫色の瞳。  穏やかな表情も、優しい声も、いつも気にかけてくれる所も全部······  「僕も嬉しいです。こうしてフェリクス様と過ごす時間が1番の幸せです」  好き。  僕はフェリクス様が好きだった。  でも、平民の孤児が王子様に恋をするなんてきっと不敬のはず。  だからこの気持ちは誰にも言わない。  それにこれ以上の幸せを願ったら罰が当たっちゃうから。  今のままでも充分、僕は幸せだ。
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