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残っている仕事なんてもうどうでもいい。
あの方があそこに必ずいるなんて保証はない。
だけど会いたかった。
今すぐ会って、優しくされたい。
優しくされたら、いつものあの甘い砂糖菓子を······!!
「リュイ」
「フェリクス様っ······!!」
いつも会う人気のないお城の裏庭。
そこにフェリクス様がいて、僕を優しく抱き締めてくれた。
良い匂いがする。
あの砂糖菓子とよく似た甘い匂いがフェリクス様から漂っている。
「フェリクス様······! フェリクス様······!」
名前を何度も連呼する僕の頭をフェリクス様は優しく撫でる。
「もう大丈夫だよ、リュイ。想定外のことが起きたけど、どのみち処分する予定だったから丁度良かったよ。原因はなんであれ、あれは事故だからリュイには関係がない」
フェリクス様がなにか言っているけど全然頭に入ってこない。
僕の頭の中は漂う甘い匂いでいっぱいだったから。
「リュイ。顔を上げて、口を少し開けて」
「? ······んっ!?」
なにも考えず言われた通り顔を上げて口を少しだけ開ける。
すると次の瞬間、僕とフェリクス様の唇が重なった。
少し開けていた口からニュルリと舌が侵入し、ぐちゅぐちゅと水音を響かせる。
息も唾液も混ざり合い、口に溜まった唾液を僕は飲み込んだ。
「甘い······」
飲み込んだそれは甘かった。
ドロリと濃く、いつまでも口に残るような後味。
「いつも食べる砂糖菓子よりも?」
その言葉に頷くとフェリクス様は満足そうに笑う。
そしてその笑顔のまま僕の耳にそっとささやく。
「リュイはよく頑張ったね。身勝手な親に捨てられても、孤児院の大人たちに放置されても、王宮に就職してからはずっとこき使われても、リュイは一生懸命で健気だった。平民でも孤児でも下級使用人でも関係ない。俺はリュイのすべて受け入れるよ。世界で1番愛してるから」
「っ······!」
──"愛してる"
それはずっと誰かに言われたかったけど諦めた言葉。
「もう頑張らなくていいよ。これからは俺のために生きて、俺だけに愛されて」
気づけば僕は"はい"と返事をし、意識を手放していた。
意識を失う直前に見えたのはにっこりと笑うフェリクス様の顔だった。
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