砂糖菓子に願いを込めて

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 気まぐれに手を出された1人の使用人。  お手つきになったのは1度だったが、そのたった1度でその使用人は王子を産んだ。  望まれて生まれた子じゃない。  なのに運命は皮肉にもその王子は異母兄弟たちの中で1番魔力量が多かった。  身の丈に合わない強大な力のせいで比べられ、敵視され、何度も殺されかけて······  「ひどい人ですね、あなたは」  「なにが?」  執務中に俺─フェリクス・メイディにそう言ったのは従者のカミル。  幼い頃から優秀だったが父親の後妻としてやってきた義母と異母弟に嫌われ、伯爵家の嫡男でありながら不遇な扱いを受けている。  お互いが12歳になってからだからこの主従関係はもう10年は続いていた。  おかげで表情筋が死んでいるカミルの感情の起伏はなんとなくわかる。  これは······かなり怒っているな。  「とぼけないでください。誰があの子······リュイを魔力中毒にしろと言ったんですか」  「あっ気づいちゃったんだ。今さらだけど」  「ええ。監禁されているだけだと思っていた自分が憎いです」  ──魔力中毒  それは他人の魔力を与えられた人間に起きる症状。  魔法を使う際に必要な魔力というのは毒にも薬にもなる。  少量の魔力なら減ってしまった自分の魔力の回復に役立ち、自己治癒能力を上げてくれると言われている。  しかし量や濃度が一定を越えると人によったら体が耐えきれず、そのまま死ぬ者もいる。  リュイの元上司もそうだ。  あれは砂糖菓子に(・・・・・)似せた(・・・)高濃度な俺の魔力を取り込み、そのまま中毒死をした。  他人の魔力というのはそれほど危険な代物だった。  だからこそ、1年という時間をかけてリュイに俺の魔力を与え続けた。  少しずつ量と濃度を増加させ、俺の元から離れられないように······  「約束は守ったよ。リュイから『好き』って言われるまでキスもそれ以上もしないって。少なくとも、魔力漬けにしたらダメとは言われていない」  「屁理屈を······普通そんな非人道的なことは注意されなくてもしないことです」  「そうだね。まぁでも、元々俺は異常だから普通を求められても困るかな」  「······」  カミルは黙ったまま俺を睨むが気にしない。  そういうのも全部承知で実行から。  「後悔、してもしりませんよ」  そんな捨てゼリフに俺は笑う。  だって今さらすぎる。  後悔するとわかっていたらこんなことはしない。  「しないよ。だってリュイが手に入ったんだから」  リュイが食べていた砂糖菓子。  あれの瓶には俺の魔力の塊が入っていた。  最初は1~2粒だけ。  そこから少しずつ量を増やして濃度を濃くして、1年が経つ頃には中毒になる。  予想外だったのはリュイは魔力量こそは0に等しいけど、魔力への耐性はかなり高かったこと。  だから我慢できず最後の方からガラス瓶に高濃度の魔力の塊を入れてしまった。  もちろん、死ぬことがないよう細心の注意は払ったけど。  「それに、後悔しているのはカミルの方でしょ?」  俺の言葉にカミルの瞳が大きく開き驚いた表情になった。  でもそれは少しの間だけで、またすぐにいつもの無表情に戻る。  不思議だなぁ。  リュイと同じ瞳の色なのにリュイの方が何十倍も綺麗に感じる。  「······しませんよ。彼がどうなろうと、所詮は赤の他人ですから。他人がどうなろうと私には関係がありませんので」  「そっか」  なら、今はそういうことにしておくよ。  カミルとはこれからもイイ関係でいたいからね。  「じゃあ、仕事終わらせたから休憩に行ってくるね。なにかあったすぐに連絡して」  「はい」  リュイは知らない。  私がリュイを見初めたのは王宮に就職した2年前じゃなくて、今からもう5年も前のこと。  異母兄弟たちが嫌がって押しつけた奉仕活動の途中で配達の仕事をしている君を見つけた。
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