窓鷲荘のお坊ちゃま

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「ほら、ここが僕の部屋だよ」  部屋に入って扉を閉め、連れてきた子たちに声をかける。木の枝をテーブルに置くと、しがみついていた生き物が、そろりそろりと動き始めた。僕の小指にも足りないようなサイズの体。図鑑で見た狸と、猫の中間のような姿。だけど、虹色の狸や猫なんてどの文献にも載っていないだろうな。 「お腹は減っていないかい? そうか。この部屋の中は安全だよ。さて……君はどうだい? ここを気に入ってくれるかな?」  拳よりも大きな石の上に腰かけているのは、子供の頃に英国の映画で見たのとそっくりなフェアリーだ。金色の髪の女の子。キラキラ光る体に羽が生えていて、先がくるんと丸まった小さな靴を履いた足を、ぶらぶらさせている。あそこ、と指すから、一人掛けのソファーのそばに石を下ろした。嬉しそうに、ソファーの下の方を見ている。そこでは、僕が最初にここへ連れてきた、茶色い髪の小さな男の子が居眠りをしているんだ。彼の背中にも羽がある。 「それと、君だ。ポケットの中は窮屈だったろう? ごめんよ」  潰さないように細心の注意を払い、手で掬い上げる。花びらの舟に揺られて川を下っていくのを見送るつもりだったけど、何とも心細げな風情で心を惹かれた。流れの途中で引っ掛かったのを、ハンカチに乗せて連れてきた。 「うん? ハンカチを濡らして済まなかったって? 構わないよ。君は紳士なんだなあ。花びらに乗って、どこへいくつもりだったのか、よかったら聞かせてくれないか」  腕組みをし、しかつめらしい顔で考えた末、彼は頷いた。褐色の体は、僕の手の、親指の爪くらいの大きさだ。母が大切にしていた、引出しが三段ついている宝石箱の、一番上の蓋を開けて、真っ赤なビロードの上に彼を下ろした。王子様みたいな風格の彼は、手触りを確かめ、ぴょんっとひとつジャンプをして、くるりと宙返りをしてから、かっこよく降り立った。 「お見事!」  ニヤッと不敵に笑ったところといい、いい友達になれそうだ。襟を立てたベストがお洒落だな。  僕は彼の前のソファーに腰かけて、足を組んだ。 「じゃあ、おしゃべりを始めようか。……うん、うん。なるほど……」
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