神官ユフィ

1/6
前へ
/133ページ
次へ

神官ユフィ

 『君の育てた花をずっと見ていたいな――――』  そんな他愛もない社交辞令を真に受けて、十年近くが経過しようとしている。人は時に、心にもないことを口にすることがあるのだと理解するようになってからは、いずれ「もういらないよ」と言われてしまう日が来ることを怯えていた。  けれど、エリオットは今日もこうして変わらず、緑豊かで緩やかな山道を上っている。  ――本当は迷惑だったりするのかな……こうして嬉しくてたまらないのは僕だけ、ひとりよがりで……。  前回の配達の折、アウレロイヤ家の従僕との大事な談話の最中に訪問してしまったことを思い出して、申し訳なさでいっぱいになる。祭殿の主たるユフィとシェリーズの間で契約書を取り交わして取引ではあるものの、「それなら毎週必ず持っていきます!」と押し売りをしたのは幼い頃のエリオットだった。  わかっている。ユフィはこの世の誰よりも清らかで心優しい人だ。自分に尽くそうとするエリオットを拒みきれないのだろう。あるいは、小さな花屋の稼ぎを奪うことになるのが可哀想だと契約を打ち切れないのかもしれない。  エリオットは、そんなユフィの厚意に甘えて――いや、彼の傍に居たいという浅はかな欲を満たすために、利用しているといっても過言ではない。  身の程知らずだという自覚はある。ユフィもそんなエリオットに内心、うんざりしているのかもしれない。 「……そっか、結婚式が羨ましかったのかな。あんなに幸せそうなところを見て暗くなるなんて、申し訳ないしよくないな……」
/133ページ

最初のコメントを投稿しよう!

244人が本棚に入れています
本棚に追加