神官ユフィ

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 エリオットは深呼吸して自身に喝を入れ直した。今の自分の精神状況はおかしいと自覚しただけで、気分が軽くなる。何より、彼にこんな暗い顔を見せるわけにはいかない。きっと心配させてしまう。  これは仕事だ、エリオットの想いなんて関係ない。依頼されたから花を届ける。エリオットとユフィは店員と客、それだけの間柄なのだ。迷惑かもしれないなどと気後(きおく)れする必要はない。  今日も元気に、単なる町の花屋として笑顔と綺麗な花々を届けてさしあげればいい。  鳥の囀りを相槌に鼻歌を紡いでいると、あっという間に祭殿の入口へ辿り着いた。  石積みの門は開け放たれていた。風化して隙間から雑草の生えたそれをくぐると、天を覆う巨木の幹に絡めとられたように佇む、純白の石造の祭殿の姿が露わとなる。  当初は祭殿の傍らに植えられていたとされる庭木が、長い年月を経て根を伸ばし枝葉を広げ、祭殿の一部を呑み込むようにして成長したのだという。  この息を呑むような絶景はあまり知られていない。アウレロイヤが首都から離れた僻地に存在していること、そして何より精霊信仰がジェスリンでは一般的ではないためだ。邪教ではないが、主流でもない。普通は精霊の上位に存在する、太陽や農耕の神々を信仰するため、巡礼ルートから外れてしまうのだという。
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