神官ユフィ

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 それでよかったのだと、エリオットは思う。人が増えれば増えるほど、静かで神聖な森は荒らされてしまう。のみならずユフィの姿を拝み、その教えを聞こうとより多くの人が押し寄せただろう。それではユフィが今以上に遠い存在になってしまう。ユフィもまた、人の多い王都は苦手で、この穏やかな土地を愛しているのだと言っていた。  エリオットは何年通っても飽きることのない光景に見惚れてから、閉ざされたアーチ状の木製の両扉へと歩み寄った。  コンコン、コン。  二度、三度とノックを繰り返す。此処にはユフィの他、三人の老僕が従神官として居住しているはずだが、返事はなかった。生活用品を調達するため街へ下りたか、あるいは山羊や番犬の散歩を兼ねて野草採取にでも出かけたのか。頻繁にというわけではないが、稀にあることだった。  ――……今日は、ユフィ様にお会いできそうもないな。  神官らが不在の際は、花を替え終えたら内部で待つよう言い付けられている。けれどエリオットがその命令に従ったことはほとんどない。  帰宅とともにエリオットの(おとな)いを知った彼らは、慌てた様子でティータイムの準備を始める。つまり、エリオットを労おうという心遣いからの命令なのだ。自分一人のためにユフィの手を煩わせるだなんて恐れ多いにもほどがある。  その意図に気づいてからは、突然雨が降り出しただとか、体調が芳しくない場合を除いて早めに立ち去るようになったのだ。  ――ユフィ様とお茶ができるなんて身に余る光栄だけれど、こうも頻繁だと勘違いしてしまいそうになるから。
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