神官ユフィ

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 勘違いするのはエリオットの勝手だけれど、期待して辛い思いをするとわかりきっているのなら、最初から近づきすぎない方が良い。  少々落胆しながら、打ち付けられた把手に手をかけて勢いよく引いた。 「ふ、んっ……くう……!」  何度か弾みをつけて引っ張るものの、扉はびくともしなかった。以前はこんなに固くなかったはずだ。 おかしいな、と思いつつ全体重をかけて足を踏ん張るが、やはり堅固な扉は開かない。  そんな風に小首を傾げるエリオットの背後に、足音もなく現れた優雅な人影がそっと寄り添った。 「遅れてしまってごめんね、エリオット」 「へ……」  早朝の清々しい空を思わせる甘く澄んだ声が降るとともに、把手を握るエリオットの手に、黒手袋をはめた伸びやかな指が重ねられる。  扉と自身の上に差し込んだ黒影から、すぐ真後ろにその人が居ることを知る。 エリオットは数秒の間硬直してから、はっと頭上を振り仰いだ。 「えっ、あ、ユフィ、さま……」 「こんにちは。驚かせてしまったよね。君が何やら一生懸命になっているのが可愛らしくて、ちょっと悪戯心が湧いてしまって」  その言葉通りに、こちらを真上から見下ろす、底の知れぬ聖性を秘めた深いアメジスト色の瞳が悪戯っぽく細められる。それを間近で目撃したエリオットは、暫しの間、頬を赤らめたまま呆けてしまう。 腰まで伸ばされた滑らかで癖のない髪が、うららかな日差しを受けてきらきらと輝いている。
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