神官ユフィ

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 その顔立ちは温和で甘い。眼元や口元が常に柔らかく弧を描いていて、いつ何をしていても微笑んでいるような印象を抱かせる。元からそうなのか、それとも意識して保たれたものなのか、エリオットはこの表情が崩れた瞬間を目にしたことがない。ともかく、慈愛に満ちた端正な顔をしているのだ。  小柄なエリオットを上から容易く覗き込めてしまうほどの長身は街でもあまり見かけない。白に金糸のローブを纏っているために痩身と誤解されそうだが、地方貴族とは思えぬ鍛えられた肉体を持つことを、エリオットは意図せず思い知らされていた。  アウレロイヤに住まう乙女が一度は憧れる、完全無欠の神官――それが、このユフィという男だ。 「ここの扉なんだけど、先日、荷車が意図せずぶつかってしまってね。それからどうも建付けが悪くて開くのにコツがいるんだ。ともかく、君が去る前に間に合ってよかった……んだけど、どうしたの? 私の顔に何かついているかな?」 「…………」  黄金と言うよりはプラチナブロンド近い髪は、その初雪のように白い肌とともに彼の神聖性を際立たせている。  その神々しい存在が、あまりに近くて見惚れてしまう。  ――気のせいかな、最近、なんだか前と距離感が違うような……近くなった、ような。  頭上から覗き込まれたことで彼の髪がカーテンのように顔の両側に下り、周囲の景色を覆い隠していた。  狂おしいほどに憧れ続けたユフィの顔しか見えない。しかも前方は固く閉ざされた扉。背後には彼自身が居る。まるで追い詰められたかのような心許なさと面映(おもは)ゆさに、エリオットは放心していた。 「……エリオット?」
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