神官ユフィ②

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神官ユフィ②

 身廊の両側には、黒檀を用いて設えた五人掛けのベンチが五列、厳粛な空気を放ち並んでいる。祭日を除けば地元民と旅の巡礼者がぽつぽつと立ち寄るだけだが、小ぢんまりとしつつも風格が色あせることはない。  エリオットの花は、その祭壇にならぶ一対の大ぶりなガラスの花瓶に供えられる。 「失礼します」  祭壇まで歩み寄ったエリオットは、両眼を閉ざすと両手を組み、最早恒例となった祈りを捧げる。 ユフィ様が、これから先も健やかでいられますように。  自分ごときが願うには烏滸(おこ)がましい内容かもしれない。分かっているけれど、エリオットにそれ以上の願いは存在しなかった。  祈り終えてから、花の挿し変え作業を開始する。花瓶の花束はまだ瑞々しく咲き誇っていた。花の魔女であるシェリーの魔法で、シェリーズの花は持ちがいいと評判なのだ。それでもこうして頻繁に取り換えるのは、魔法は自然の摂理に刃向かうものであるし、精霊様が見飽きてしまうかもしれないから、という祭殿側の心配りからである。  エリオットからすると精霊も魔法を使うのだから気にしないのではないかと感ずるところではあるが、人間が人理に逆らう魔法を使うだなんて身の程知らずだとか、何か教典に記載があるのだろう。凡人である自分等より数倍も頭の良い神官たちなのだ、思惑があるにきまっている。金銭的にも手間暇を(かんが)みてもわざわざ無駄なことをするはずがない。
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