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そう、神官たちは多忙なのだ。本来であればこうしてエリオットに構っている暇などないのに、わざわざこうして作業を見守ってくれている。ユフィの貴重な時間を食いつぶすわけにはいかないと、エリオットは丁寧に、それでも彼なりに手早く花を取り換えていく。花瓶の水を取り替えることも忘れない。
途中、削ぎ残した棘を思い切り掴んだ。が、その鋭利な先端がエリオットの肌に刺さることはない。鋭利な葉が表皮を薄く切りつけることも同様である。これもきっとシェリーの魔法なのだ、いずれは彼女のようになりたいなと思う。
「どれもこれも綺麗な花だ、この百合の薫りなんてうっとりする、素晴らしい出来栄えだ。次はどんな子を選んでくれるのか楽しみで仕方がなくてね、エリオットが来るのを指折り数えて待ちわびていたんだよ」
「ありがとうございます……! 僕にはもったいないお言葉ですけれど、一生懸命手をかけて、すごく悩んで選んだ花たちなのでそう言っていただけて嬉しいです。これからも頑張りますね」
隣から手元を覗き込んでくるユフィに、エリオットは照れたように笑い返す。
――なんてことない、ユフィ様が待ってたのは僕じゃなくて、僕が育てた花の方。
そうやってどれだけ言い聞かせても、心が浮足立つのを止められそうもない。ユフィに必要としてもらえること以上の喜びなど、どこにも存在しないのだ。
あれはエリオットがようやく物心つきはじめた頃、自身がシェリーの養子だと知る前のことだった。
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