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当時、エリオットはシェリーとともに幾度となく領主たるアウレロイヤ家を訪問していた。シェリーは領主と仕事の話があったようで、その間、エリオットは広い庭園で遊ぶことを許された。手の空いていた朴訥とした侍女とともに追いかけっこをしたり、花冠を作ったり、自由に遊ばせてもらっていたと思う。
そんな中で、アウレロイヤ家の末子であるユフィと出逢った。最初は警戒心を滲ませていたユフィだが、その人懐こさは当時から変わらず、すぐに心を開いてくれるようになった。
教師泣かせの物知りで、エリオットの無礼を許してくれるほど懐が深くて、笑顔が息をのむほど素敵で。エリオットにとって、彼が憧れの存在となるのに、そう時間はかからなかった。
『すごいね、エリオットが育てた花はいっそう綺麗に見えるよ。家が花屋さんなんだよね。じゃあ君が後を継いだあとも、必ず私が贔屓にしてあげる』
ユフィがそう言って咲き乱れるような笑顔を見せてくれたとき、エリオットは将来を決めていた。母のように立派な花屋になれば、ずっとユフィと一緒にいられる。それからはこれまで以上に仕事を手伝った。体力が無くては仕事が務まらないと聞けば、嫌いなニンジンだって食べられた。
だから、ユフィが神官となり町を離れると聞いた時には、目の前が真っ暗になった。応援すべきだと理解しているはずなのに、もう気軽には会えなくなること、約束が果たされることはないのだと幼いながらに絶望したものだ。
だから、今こういう形で約束を守り続けてくれているだけで幸せだった。もっとも、この品質を保ったままシェリーの後を継げるとは言い難い状況なのだが。
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