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シェリーズの花が美しいのは、主人であるシェリーの魔法が素晴らしいからだ。エリオットも魔法を習いたいとは思っているけれど、曰くまだその時ではないらしい。成人して少し経たないと、魔法の素養の有無はわからない。それにより修行の内容も変わるため、今は心身ともに健康を保ちつつ待つしかないのだそうだ。
「エリオット? どうしたの、急に浮かない顔になって」
「いえ、はやく一人前になりたいなと思って……まだ、母さんの足元にも及ばないですから。手伝いだけではなくて、自分で色々やれるようにならなきゃな、って、ふと思いを強くしちゃっただけです」
「そうか、エリオットは頑張り屋だね」
えらいね、とユフィの大きな手が伸びてきて、優しく頭を撫でられる。嬉しさと気恥ずかしさで、ぶわりと全身の血液が逆流したようにそわそわした。
――子供扱いされてて、あんまり喜ばしいことじゃないはずなんだけど……でも、幸せ……。
髪を梳かれる感覚を楽しんでいたエリオットは、そこでやっと自分が作業を終えていたことを思いだして狼狽えた。
「あ……あの! お花の交換、終わりましたので」
「うん? ああ、ありがとう、ご苦労さま」
「はい……じゃあ、それでは」
「うん、じゃあ中庭に行こうか。美味しい菓子とお茶を用意してあるんだ」
そう微笑しつつ祭壇横の裏口を示され、エリオットは唖然とした。
――邪魔になるだろうから、すぐさま帰るつもり、だったんだけど。
普段ならば嬉々として頷いたところだけれど、今日は違う。気が乗らない以前に、ユフィは何かの作業を中断してわざわざかけつけてくれたようだった。
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