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ユフィの厚意は有難いけれど不用意に迷惑はかけたくない。
何より、そのお茶も菓子も、自分のような年若い出入りの業者ではなく、祈りを捧げに訪れた敬虔な信徒や、ガタつく身体に鞭を打ち修理を終える大工に一口でも多く供されるべきものではないだろうか。
「いえ、せっかくですが、今日はもう下がらせていただこうかと。お気持ちだけいただきます」
恐縮したように笑みを返すと、なぜかユフィが軽く眼を瞠った。
「え……、何か大事な予定でもあるのかい?」
「い、いえ、祭殿に通うこと以上に大事な予定なんて何も! ただその、ユフィ様はお忙しいご様子だったので、また時間のある時にお願いできればな、って」
何事にも鷹揚と構えるユフィらしからぬ表情に、エリオットは慌てふためく。嵐の日、祭殿の真横に立つ古木に雷が落ちた時でさえ次の瞬間にはにこにこしていたユフィが、僅かに眉をひそめているのだ。
――失礼な言い方だったかな……? そんなことで怒るような方じゃないはずなんだけど……。
「そうか、私を気遣ってくれたのだね。やはりエリオットは優しいね」
ユフィは愁眉を開いたけれど、その表情はまだどこか晴れない。
「でも残念だな……せっかく昨日のうちから食器を磨いてクッキーとマドレーヌを焼いて、ティータイムを愉しめるよう準備しておいたんだけれど……」
「えっ、昨日から……?」
「うん。干したレーズンやアプリコットをたくさんいただいてね、エリオットは焼き菓子が好きでしょう? そのまま食べるのも味気ないし、張り切ったんだけれど……日持ちするものだし、次回まで取っておくね」
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