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「あの、そこまでしていただいたのに、その、ごめんなさい……」
「ううん、いいんだ。……そうだよね、君にもわざわざ私に言うまでもない約束や予定のひとつやふたつ、あるよね」
「! 違います、本当にこの後は何も、シェリーズに帰って店じまいと夕食の支度をするぐらいで……!」
「……本当? でも、私と一杯のお茶を飲むだけの時間も惜しいのだよね……?」
「そんなことありません。お仕事の邪魔になるかと思っただけで……その、もし本当に余裕があるのだったら、ぜひ、一杯だけ……」
狼狽えつつ申し出ると、ユフィは途端にぱあっと花が綻ばんばかりの笑みを見せた。その変わり身の早さに安堵を覚える。ユフィの哀しむ顔なんて絶対に見たくない。
「うん、もちろん! さあ奥へ、すぐにお茶の用意をさせるよ」
「わ、はい、ではお言葉に甘えて……」
手を引かれながら、エリオットはおや、と思った。てっきり無人だと思っていたが、宿舎の方にはアウレロイヤ家の使用人か神官が控えているらしい。それならば、わざわざユフィが駆けつけるまでもなかったような気がするが。
――お茶も絶対に断ろう! と思ってたのに、何だかうまく乗せられちゃったような気がするけれど……。
まあ、ユフィが嬉しそうだからどうでもいいか。
行く、と口にしたからには深く考えてもどうしようもない。エリオットは、待ち受ける幸福なひとときに思いを馳せることにした。
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