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そう自身に言い聞かせつつ、エリオットは寂しげな面持ちで無心に針を進めていく。丁寧に、心を込めて、大切なあの人の顔と、青地に描く繊細なアカンサス模様を思い浮かべながら。
ちくちく、ちくちく……。
一縫い一縫い針を通すたびに、心臓まで縫われたようにちくりと痛みを放つ。それでもやめるわけにはいかない。この痛みに慣れなくてはならないのだ。それが、完成よりも大事な目的なのだから。
型を取り、布を断つその間にもこの恋心を断ち切ることはできなかった。
すっぱりと切り捨てられないのならば、徐々に消えてくれることを祈るほかない。隅々まで刺繍を終える頃には、以前のように能天気に笑ってあの人を祝福できるだろうか。
心中は雨空のようにどんよりと曇っている。それでも幸せそうなあの人の笑顔を思い浮かべるだけで、まるで小さな火が灯ったように胸の空寒さが薄れるのだった。
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