花屋のエリオット

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花屋のエリオット

「あぁっ! 待って、待ってください! 乗せてください!」  窓から身を乗り出し、通りの反対側に停車した乗り合い馬車に叫ぶと、御者が苦笑して手招きをしてくれた。  ほっと胸を撫でおろしたエリオットは、すぐさま店内を振り返る。  まず目に飛び込んでくるのは、鮮やかな緑と咲き誇る花々だ。天井から吊るされたいくつもの鉢植えから伸びる蔓草は、柱や、壁から壁へと渡された紐を伝い店内を這いまわっていた。それが通りに面した窓のひとつを覆うカーテンと化している。天井と壁は柔らかく清々しい印象を抱かせる白。色とりどりの花を浸した木桶や鉢が段差をつけてディスプレイされ、手に取りやすく見目麗しく、また日当たり等、適した環境で保管できるよう調整されている。  その手前の小さなカウンターに腰かけて本をめくる美しいグレイヘアの淑女は、エリオットの養母であり花の魔女、そして伝承の街アウレロイヤの片隅にある花屋『シェリーズ』の店主、シェリーである。 エリオットは壁にかけていたローブを羽織ると、カウンターの上に安置されていた、切花を詰めたバスケットを引っ掴んだ。あまりの勢いに一輪のエリンジウムが落下したが、気づいたエリオットはすぐさま拾い上げた。 「やっと選び終わったのね、律儀なことだわ。気を付けて、神官さまによろしくね」 「うん! 行ってきます!」
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