運命の出会い

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運命の出会い

『だあれ……?』  水底を思わせる深蒼の瞳と視線がぶつかった瞬間、背筋を何かが駆け上がり、心臓が鷲掴みにされたようにどくんと跳ねた。  僅かに癖のあるほわほわした黒髪。大きく瞠られた眼は垂れ目がちで、頼りなげな愛らしさがある。桃果のようなふっくらした頬にはほわりと赤みが差し、本当の果実であったなら食べごろに違いない。  ユフィは戸惑った。年相応に愛らしい――のだが、当然、神の悪戯とまで囁かれた己の麗容には到底及ばない。それなのに、眼を逸らせない。こんなことは初めてだった。普段なら会話の主導権を握るのはユフィの方なのに、言葉が出てこないのだ。 『……もしかして、御使い様?』 『……いいや。私はユフィ。この屋敷の居候だよ。君は?』 『……エリオット』  そんな会話を終えてやっと、ユフィは冷静さを取り戻した。  聞けば、エリオットは屋敷で仕事がある母親とともにやってきたのだという。母が仕事をする間、メイドと遊んでいるよう指示されたが、メイドがいなくなってしまったため一人で花を摘んでいたそうだ。  話を聞いてやりながら、ユフィは不信感を募らせた。どう見ても平民の子だ。屋敷をうろつかせるなどいくら楽天的なアウレロイヤ家でもあり得ないし、そこにわざわざメイドをつけるというのはさらに奇妙なことだ。その待遇は貴賓の子女に対するものに相当する。  その時は、暇つぶしに持っていた本を読んでやった。既にジェスリンに組み込まれた小国の歴史書で子供には何の面白みもない代物だったが、エリオットは『難しい本が、字が読めるユフィさまがすごい』と喜んだ。  迎えに来た使用人と、母というには少々、年の行き過ぎた女性とともに屋敷を去る際、エリオットは、何度も名残惜しそうにこちらを振り返っていた。また相手をしてやってもいいな、と思った。
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