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エリオットを放置して馬小屋で怠けていたメイドは、解雇された。馬に蹴られて働けなくなったのだった。
それから、エリオットは定期的にアウレロイヤ家を訪れるようになった。ユフィは必ず彼の遊び相手をした。薔薇を摘み、庭木でかくれんぼをして、馬にも乗せてやった。最初は興味本位で近づいただけだったけれど、その他愛もないひとときに安らぎを覚えるようになるのに、そう時間はかからなかった。
エリオットはユフィに何も求めない。裏表がない。仲良くしたいとは思っているだろうけれど、取り入ろうだなんて考えない。そして、弱くて脆い。これまで過剰なまでに庇護されてきたユフィも、エリオットの前では保護者側に回らなくてはならなくなる。これがまた楽しかった。屈託のない信頼を向けられ、それに答える――ユフィはこの時ようやく、他人と心を通わせる喜びを知ったのだった。
決定的なあの日のことを、今でも鮮明に覚えている。
あれはユフィの誕生日から数日が経過した日のこと。
ユフィが木陰で寝ころびながら読書をしていると、突如、エリオットがひょこりと覗き込んできたのだ。その彼の、何かを企んだような微笑。ユフィはそれに気づかないふりをして起き上がり、よく来たねと歓待した。
そんなユフィの頭に、エリオットが花冠を載せてふわりと笑う。
『お誕生日おめでとうございます。やっぱり、ユフィさまはきれい。青がとっても似合うね』
ブルーローズに、キキョウ、アイリス、そして名も知らぬような青の花々で飾り立てられた花冠をそっと手に取り、ユフィはまじまじと見つめた。
青という色が、あまり好きではなかった。
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