精霊の御子

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精霊の御子

『あの子は、いけない。自分だけの侍従が欲しいのなら、名家の子息から選ばせよう』  謁見でユフィを迎えた兄は、いつになく険しい顔で首を横に振った。そういう話ではないのだと、ユフィも食い下がった。侍従というのは一人の庶民を傍に置くための建前にすぎない。友人でも義兄弟でも何でもいい、ともかく自分のものにしたい。  綺麗な言葉で飾り立てつつそう主張すると、王はいっそう頑なになった。なおさらいけないと、初めてユフィを叱るような口ぶりで却下する。なぜ、と当惑するユフィに、兄王は大きくため息を吐き、人目を憚るように視線を巡らせて、告げた。 『そなたも気づいているのだろう。だからこそ望んだ。……そのエリオットという少年こそが、当代の精霊の御子であらせられるのだと』  ――エリオットが、精霊の御子。  衝撃を受けつつ、色々なことがすとん、と腑に落ちた。エリオットの母がアウレロイヤ城を尋ねていたのは、エリオットの近況を報告するためだったのだろう。そしてユフィがエリオットを気にかけてしまったのは、王家が契りを結んだ精霊の気配を感じ取ったためだ。王家の者は数多くの民の中から御子を見つけだすことができるという伝承は真実であったのだ。 『そなたが何かを望むなど幼少期以来のことだ。私も叶えてやりたいと思う。しかし、精霊の御子は自由に生を謳歌しなくてはならない。それが精霊と交わした契りなのだ。それが破られた時代のことは、そなたも聞き及んでいるだろう?』
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