精霊の御子

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『……南部では雨が降らず照り続けた日差しで大地が灼け、北部は大雪で家屋が潰れ、東部では洪水が起き、西部では規格外の害獣が繁殖し、多くの民が命を落としたと……』 『左様、それは百二十年ほど前の記録だな。あれは歴代でもっとも酷い天罰であった』  精霊の御子は、後天的に会得可能な魔法とは異なる、聖なる力を得て生まれる。大抵はささやかなもので、多少の水を浄化するだとか、動物の気持ちが分かるだとか、雨を呼ぶだとかいった程度のものだが、その時の御子は絶大な治癒能力を開花させた。これは魔法ではない、御子に違いないとすぐにその正体が明るみに出てしまい、攫われて暗黒街で奴隷のような暮らしを強いられてしまう。  その結果もたらされたのが、先ほど述べた数多の天災であった。 『よいか、〝精霊〟などと称しているが、それは神に等しい存在なのだ。民の心を支える国教が神は唯一と定め、それ以外のものは唯一神の配下に過ぎないと教えを説いているがゆえ、そう呼ばわざるを得ないというだけ。私も神の信徒であり、常にかのお方の御心のままに存在しているつもりではある。だがそれそれとして、精霊がこの国を亡ぼすだけの力を持つことは、特に我々王家の者はゆめゆめ忘れてはならぬ』 『……つまり、私がエリオットを――御子の自由を奪い、この国が災禍に見舞われることを恐れていらっしゃるのですね』 『…………そなたは本当に敏い、ユフィ。分かってくれるな』
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