花屋のエリオット

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 このアウレロイヤ地方における婚儀の際には、精霊石で染めた真青な織物で仕立てられた装束を纏うことが習わしとなっている。  精霊石は祭殿のあるアウレロイヤの森で採取される鉱物である。鮮やかな青色の発色が美しいという、この土地ならではの染料であり名産品のひとつだった。聞くところによると、精霊が通過した大地が変質して作られるものだそうだ。目に見えないだけで森の中に精霊は実在している。  ジェスリン王国とその王家に精霊の加護がある限り、このアウレロイヤは天候と肥沃な大地に恵まれ、精霊石が尽きることはないのだ。  遥か昔のこと。大陸には数多の小国が存在し、長く小競り合いを続けていた。そんな中、国を一つにまとめあげようと一人の王子が奮起する。のちに長い戦乱を終局へと導き、国々を束ねてジェスリンというひとつの大国を作り上げるこの王子――ジェスリン王国初代国王は、最初にこのアウレロイヤにて精霊の加護を受けたのだという。ただの長剣はけして折れることのない聖剣となり、その生身の肉体は人間離れした強健なものとなったことで、蛮族や敵対勢力を打倒することができたそうだ。  その結果、当初は狩場が存在するだけであったこのアウレロイヤに、精霊の加護を求めた人々が集い住むようになったという。  精霊の加護を受けて以後、王の持つ剣身は冴え冴えとした青い光を放つようになり、その頭髪は群青へと変化した。どこまで真実かはわからないが、現在でも王族の中には類稀なる青髪をそなえて生まれる者がいるらしい。
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