精霊の御子

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『アウレロイヤの神官長を務めるためには……そうだな、古式の作法に則り、アウレロイヤ家の名を継ぐ者に、たとえばユフィ・クロル・アウレロイヤとなる必要がありますね』 『……それは』  ユフィが首を傾けつつ微笑むと、兄王がごくりと息を呑んだのがわかった。 『そうなると王位継承権は放棄せざるを得ません。口惜しいことですが……王位よりも欲しいものが出来てしまいました』  次の言葉を待つまでもなかった。甥にあたる第一王子はユフィの二歳年下。第二王子は三つ下。どちらも文武共に秀でているが、神の子と謳われたユフィには及ばない。  こうして、王家の血を引くユフィは、アウレロイヤ家の末席に名を連ねるようになった。  今やこの顛末を表立って口にする者は存在しない。聖なる神の愛し子が、兄王の面目を保つため身を引いた――そんな美談がまことしやかに囁かれている。  清廉潔白なユフィに、歪で邪な独占欲が宿ることなど誰も想像だにしないのだ。  それからのユフィは、数多の努力を重ねた。外見も口調も態度も趣向も、何もかもエリオットが好む通りに矯正していった。  ――違うな、あの子を前にすると、自然とそうなってしまう……少しでも好ましく思ってほしくて……。  回想から現実へと引き戻されたユフィは、小さく息を吐いて、紅茶を口にした。巷で好まれるものより黄みのある水色(すいしょく)。口に含むとどこか青臭い。それでいて渋みは無いのに甘味があり、さわやかな香りが特徴のこの早摘みは、エリオットが美味しいと好む逸品であった。
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