精霊の御子

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 独占欲や庇護欲だと思っていたものが恋や愛と呼ばれる類のものだと気づいたのは、いつのことだったか、もはやわからない。今更呼称などどうでもいい。何に対しても無関心な己が、唯一、他の何を手放してでも欲しいと(こいねが)ったのが、エリオットという存在なのだ。 「……今度こそ、慕っておりますと告白してくれると思ったのに」  エリオットに褒めそやされたことで長く伸ばされた髪を弄びながら、軽く下唇に歯を立てる。  本当にこのままで大丈夫なのだろうかと、一抹の不安がよぎった。大丈夫、市井に紛れ込ませた密偵のお墨付きなのだ。エリオットはたぶん、確実に好意を抱いてくれている――はずだ。ユフィも憎からず思っていることを、押し売りにならない程度にそれとなく伝えているつもりだ。  彼のためだけに茶と菓子を用意し、彼のために時間を融通して、きちんと話を聞いて、折に触れては『伴侶として自分は如何か』とアピールを続けている。祭りの夜に語って聞かせた新婚生活などは、まさにエリオットの理想とするところのはずだ。  にもかかわらず、頑なに好意を伝えようとしてこないのは、いったいどういうことだろう。  まだ、何かが足らないのか。権威か。いや逆に庶民的な感覚か。  これから補えるものなら問題ない。けれど、もしユフィの知らないところで別の恋心を芽生えさせていたとしたら。  ――……どうしよう、国が滅んでしまうな……。  顎を撫でつつ、静かな顔で不穏なことを考える。
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